結びメシ・食でつながる島根-東京
このページでは、島根県にゆかりのある東京の飲食店をご紹介します。(記事提供:山陰中央新報社)
【1】オサカナジャック(神田神保町)
【2】山陰居酒屋 よこや(渋谷区幡ヶ谷)
【3】えんとつ(松陰神社前)
【4】栗栗珈琲(新宿区上落合)
【4】栗栗珈琲(新宿区上落合)
掲載日:2021年12月15日掲載
益田市内で40年近く親しまれ、2013年に閉店した「スパゲッティのお店 喫茶ハッピー」。その味と接客の心得を受け継ぐ店が東京にある。西武新宿線・中井駅から徒歩5分の住宅街にある「栗栗珈琲 新宿上落合店」。ドアを開けるとコーヒー豆の香ばしい匂いが漂う。
店主の萱村(旧姓・栗本)亜紀子さん(41)=益田市出身=が一杯一杯、心を込めて抽出する。「ハッピー」を切り盛りした母の姿をずっと見てきた。「生活に寄り添い、ほっと一息つく時間のお手伝いをしたい」との思いがある。
兄が経営する益田市の本店から直送される自家焙煎(ばいせん)の豆を使用。原産地はケニア、グアテマラなど多種多様だ。喫茶スペースを設け、人気はコーヒーとホットサンド、ピクルス、ミニドルチェ(デザート)を一緒に味わえる990円のセットだ。
ミートソース、チキンクリームなど季節ごとに具材が変わるホットサンドはボリューム満点。ハッピーで長らく使われたホットサンドメーカーで焼き上げる。
本店で働いていた萱村さんは、結婚を機に上京。子育てをしながら自宅でできる仕事を模索していた時に「兄のコーヒーを東京の人にも飲んでもらおう」と思い立って、自宅の地下1階を店舗に改装した。ハッピーの閉店から数カ月後の13年6月にオープンした。
『島根で焙煎』が売りとなって近所を中心に評判が広がり、今では都内各所からファンが訪れる。
流通経路が明確であることなど、厳正な基準を満たした「スペシャルティコーヒー」を提供しながらも、栗栗珈琲がモットーとするのは「最高の普通」。「母が(ハッピーで)心がけてきた丁寧な仕事に、兄が新しい風を取り入れ進化し続けている」。萱村さんの入れる香り高いコーヒー豆が、益田と東京をつなげている。
【3】えんとつ(松陰神社前)
掲載日:2021年6月15日掲載
東京・三軒茶屋からレトロな雰囲気の路面電車に乗り、3駅目の松陰神社前駅から歩いてすぐの所にある。ドアを開けると、益田市出身の店主・宮内奈津子さんが気さくな笑顔で迎えてくれる。
秘密基地のような店内の雰囲気から一転し、素朴なおばんざいを振る舞う。材料の3分の1程度は、実家の畑で育てたものを直送してもらう。
お薦めは「野菜プレート」で、旬の素材を使い一品ずつ盛り付ける。初夏の今は、「ハチク(タケノコ)とこんにゃくのきんぴら」「小松菜ともやしのナムル」「空豆とグリーンピースのだし汁漬け」など7品目が彩り豊かに並ぶ。実家の味を再現したらっきょう漬けや必ず送ってもらう浜田特産の「赤天」も常連客に人気だ。
25歳で上京し、三軒茶屋のカフェバーで働きながら見つけたテナントで2014年7月に開店した。店内の半分はフリースペースとして活用し、当初から思い描いていた「人と関わる場所」に着々となっている。
「その時々で店の雰囲気ががらっと変わる」といい、フリースペースではパン屋の出張販売、カレー作りにはまった友人の限定店舗、アーティストの展示、音楽イベントなど催しも多種多様だ。「表現する人のステップアップを後押ししたい。やってみないと分からないこともあるので、ここで気兼ねなく試してもらう」との思いがある。
「年代にかかわらず変わった人がやってくる」とからから笑う。肩肘を張らず、リラックスできる店づくりは「なっちゃん(奈津子さん)家に来たみたい」としばしば言われる。
幼い頃から、実家ではまきを使って風呂を沸かしていた。小学校からの下校時、家から伸びる煙突から立ち上る煙を見つけると「誰かが待っている」と安心した。自分自身の力で立てた東京の「えんとつ」は、訪れる人たちがほっと気を休め、くつろげる場所になっている。
【2】山陰居酒屋 よこや(渋谷区幡ケ谷)
紙面掲載日:2021年5月12日
網で焼き上げた熱々のサバの身を丁寧にほぐし、ご飯、薬味、しょうゆ、甘ダレとからめてしゃもじで豪快にかき混ぜる。サバと米のうまみと香りが口いっぱいに広がり箸が止まらない。
渋谷区幡ケ谷の「山陰居酒屋 よこや」は、コロナ禍を乗り切る一手として新たに「焼きサバ飯」を提供する。
味の決め手となる奥出雲町産の仁多米は業界で「西の横綱」と称されるほど評価が高い。
「お客さんの反応が本当に良い」と話す同町出身の阿部琢磨店長(38)の表情には郷土への誇りが感じられる。ご飯物には全て仁多米を使うこだわりだ。
マサバの一夜干し、サザエ、板ワカメなどメニューの半数以上は山陰ゆかりの産品で、海士物産(松江市)と地元農家から仕入れ、酒も簸上清酒(奥出雲町)の「簸上正宗」「七冠馬」をそろえる。
オープンは2016年。都内の大学を卒業後、音楽業界を目指して飲食店でアルバイトを続けていた阿部さんは、埼玉県内のイベントに出展した海士物産のブースを手伝った際、島根の海産物の人気を目の当たりにし、バイト先のオーナーに「島根のものを扱う店をやってみたい」と相談して開店につながった。店名の「よこや」は実家が神主の家系であることから「験担ぎに」と名付けた。
常連を増やす中で、突然襲ってきた新型コロナ。昨年の緊急事態宣言時は休業し、今年に入ってからは時短営業で対応する。客足が減る中でも、常連客や同業の仲間が「店もあるし、お客さんも付いている」と支えてくれた。
収束がみえない状況にもめげず「毎日おいしいものを出し続ける」と奮闘を続け、客が少ない時は「何を食べたいですか」とリクエストに応えることもあるという。
上京を機に島根の食の持つ「潜在能力」の高さを感じ、今は料理人として伝える。「島根のものは間違いなくおいしい。魅力を伝えれば自然とファンは増える」と包丁を握る手に力がこもる。
【1】オサカナジャック(神田神保町)
紙面掲載日:2021年4月3日
200軒近くの古書店が立ち並ぶ東京・神田神保町。かいわいに島根産の魚介類をふんだんに使った料理を出す人気店がある。5月に開店4年を迎えるオサカナジャック。松江市出身の入江誠代表(38)は「おいしい、を通じて島根とつなげたい」と日々、厨房に立つ。
看板メニューは、浜田市から定期的に仕入れる鮮魚を使った「オサカナプレート」(1540円)。寒ブリ、アジ、しめさば、タイなど季節に合わせた4種類の切り身2人前を大皿に盛り付け、カルパッチョ風に味付ける。
ほかにも隠岐産のイワガキ、アジフライ、島根和牛すじの煮込み、奥出雲ポークの網焼きなど、県産食材のメニューが並び、県内の蔵元の日本酒との相性も抜群だ。昨秋からは、アナゴも本格的に取り入れ、肉厚な身を生かした炭火焼きやフリット(揚げ物)が人気を集める。
入江さんは東京・日本橋にある島根ゆかりの店で修業を積んだ。独立の際「島根といえば美味(おい)しい魚」とコンセプトを定め、イタリアやスペインで主流の洋風居酒屋「バル」形式を採用した。オフィス街も近く、ランチで訪れた会社員がディナーに足を運び、常連になっている。
そこは出身者が集う大切な場。海士町に関連するイベントや出身男女が交流を深める「島コン」などが行われている。
新型コロナウイルスの感染拡大は、都内の飲食店の経営を直撃した。時短営業が求められる中、ディナー営業を30分前倒し、午後4時半からにするなど試行錯誤が続く。「新メニューを考えながら、人の流れが戻ってくる時までに店自体をパワーアップしたい」と逆境に立ち向かう。